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宮本常一著(岩波文庫)

昭和14年から日本全国をくまなく歩き、各地の民間伝承を克明に調査した、民俗学者である宮本常一さんの代表作です。
この本では全国で出会った老人達から聞かせてもらった、貴重な話が書かれています。
江戸時代末から明治時代にかけての日本の村々の生活や風俗とは、このようなものだったのかと驚きました。
特に僕が印象に残ったことをいくつか書いてみます。

西日本は年齢階梯制(年齢によって区別して年長順に序列をつける制度)が濃いのに東日本はそうでもないということでした。西日本には若者組が普通にあって、老人も息子が嫁をもらうと隠居して表立った所に出ずに息子世代に村の経営を任せてしまうというようなことが書かれていたと思います。
逆に東日本では老人が権限を持ち続けていたということだったと思います。
それは、西日本の伝承は村単位のもので、東日本は家単位という違いを作ったようです。

これは極めて個人的な根拠のない考えですが、東日本に住む人達は初期に日本に上陸した集団の末裔で比較的真面目な人達であり、西日本は稲を持ちながら遅れて日本に来たグループと混血した人達の末裔で、合理性と吞気さを併せ持ったような人達だったと僕は思います。

愛知県や山口県の「夜這い」の話が出ています。日本中かどうかわかりませんが、少なくても愛知県から西では明治時代くらいまでそのようなことが普通に行われていたことに驚きました。
女性はほとんど拒むことはなかったし、その女性の親も注意するようなことはほとんど無かったそうです。若者組に入っていないと夜這いには行けないということも書かれていたので、結婚のきっかけにしたり、村の人口を減らさないなどのことも考えていたのかもしれません。

また、大阪府のある所では、1年に一度誰とも寝ていい日があったそうです。そして、この時できた父親のいない子供を大事に育てたそうです。
このようなことは、現在では絶対に考えられないことです。

若い時に村から旅に出てしまう男女が一定数いて、彼らはは帰って来てから、旅で知った新しい知識を紹介したりして村の活性化に貢献したことが書いてありました。女子の場合は母親が承知して、その手助けもしてくれたようです。その女子はお盆や正月に帰って来て、自分が覚えてきたことを得意になって話したりできるという快感を味わえたようです。

この本を読むと、たかだか100年くらいの間に随分と日本人は変わってしまったことがよくわかります。村人は時代劇に見るような、ただ生活が苦しいだけではなく、生活の中に楽しみを見つけながら村人同士で協力しあって、たくまししく、時に自由に生きていたのです。

文中に宮本さんの祖父の語っていたことが紹介されていました。それは、「人の邪魔をしないということが一番大事なことのようである」というものでした。

「現在の日本社会は不寛容が過ぎないか」という議論を時々耳にしますが、この本を読んで、かつての日本人は寛容で相当に懐の深い人達であったことがよくわかりました。

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