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河出書房新社の「おいしい文藝」シリーズと同じように、食べ物についてのエッセイを集めた、PARCO出版から出ている「アンソロジー」シリーズの中の一冊です。
文学者、エッセイスト、落語家、大手企業の名誉会長、タレント、洋画家、音楽家、シンガーソングライターなどの人達による、そばに関するエッセイ38篇が紹介されていて、面白くて時間を忘れました。それぞれの職業のせいかもしれないけど、そばにはうるさい人がやっぱり多いです。
特に、そば屋で飲む酒について、あれこれと自分のスタイルを披露していますがが、それを第三者的立場で読むと、そのこだわりが自分だけの世界に入っていて、なんともユーモラスで面白いです。

そば屋で酒を飲むのが好きな人は多いと思いますが、、浅草の「並木藪蕎麦」は、店の雰囲気がそばと酒を楽しむ世界を作っていることを知りました。居酒屋より静かなところを好むお客さんが多いらしいです。
やや黒い細麵で、もり汁はどこよりもからい江戸前そば。酒ほ菊正宗の樽酒だけ。午後から夕方にかけて徳利に入った冷酒を、ちびりちびりやるのが良いと江戸風俗研究家の杉浦日向子さんは書いています。

そばは東京だけでなく、長野県、山形県、福島県、福井県などの産地においしいそばを打つ店があるらしいです。こういう所はもともと米の代わりの農家の食事で、昔はそれらの地域ではそば屋というものは無くてみんな自分の家で打って食べていたそうです。今は、そこの土地に行くとそば通の人達の間で知る人ぞ知る的な店があることも書かれています。

僕が一番笑ったのは東海林さだおさん「いたちそば」の話です。
近所のそば屋でいたちそばというメニューを発見し、そういう名前のそばがあることを初めて知ったので注文したら、三角形の小さい油揚げと揚げ玉がたくさんのったそばが出てきました。どうしてこのそばをいたちそばというのか店のおばさんに聞くと、「ホラ、きつねたぬきがいっしょだから・・・」と言って逃げるように奥にひっこんでしまったようです。きつねとたぬきがいっしょでどうしていたちなのかを本当はもっと聞きたかったけど、これ以上迫って聞くのは店の人を困らせるだけだということに気づいて諦めた話です。この時、実は店に2回行っていて1回目は店が混んでいて聞くタイミングを逃し、次の日行って上に書いた答えを聞き出し、納得できないので3日目も行こうとしていました。でも、また聞いたらお盆に白い封筒をのせて現れ、「きょうのところは、なにとぞこれでご勘弁を」ということになるおそれがあると思ってやめたという話です。店のおばさんの困った顔が目に浮かぶようで笑ってしまいまいた。
逃げるように奥にひっこんだおばさんが、商店街にある普通のそば屋らしくていいなーと思いました。。

それから人によっては「そば屋などどこでもいい」、「そばに特長などないほうがいい」的な人もちらほらいることもわかりました。近所にあってお客もあまりいない店が好きだという感じは、最近になって流行りだした町中華に通じるものがあるのではないかと思いました。
おそらく、気楽な雰囲気が好きなのだと思います。どちらかというと、僕もその方が好きです。
おそらく、冒頭の並木藪蕎麦はその感じを最高に洗練した形にした店なのだと思います。

なるほど、そうかもしれないと思ったのは、落語家とそばの話です。
有名な落語家の人はそば屋でそばが食べにくいらしいです。寄席でそばを食べる時、いかにもおいしそうに食べているので、そば屋でそばを食べる時、近くにいるお客さんの注目をどうしても集めてしまって食べにくいそうです。特にご婦人達などは見るだけでなく、いろいろ言ってきて困るようです。
(これは先代の柳家小さん師匠の話。確かに小さん師匠のそばの食べ方は名人芸だったと思います。)

それにしても、人のこだわりというのはいろいろありますが、そばのような日常的な食べ物にもこだわりを持つところが日本人らしいと思いました。そして、本人にこだわっているという自覚があまりないところが、またどうしようもなく面白いです。

アンソロジー そば(amazon)
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