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スズキナオ著(株式会社スタンド・ブックス)

深夜高速バスに乗り続けている著者の高速バスに関する話は最初だけです。しかもその量は20ページ以下なので、深夜高速バスにまつわるいろいろなエピソードや、乗り方のコツのようなものを期待して読むと少し拍子抜けしてしまうかもしれませんが、深夜高速バスに乗ると体験させられる困る事はしっかりと書かれていると思いました。。
少しの不便を我慢すれば、大阪から東京までの料金が2000円から3000円と安い料金で移動できることに驚きました。

この本には庶民的な好奇心にあふれた小さなチャレンジがいろいろ書かれていて、それぞれおもしろかったです。
例をあげると、「友達の実家で友達の母親にインスタントラーメンを作ってもらって食べてみる」「大阪でビールの大瓶の一番安い居酒屋を探す」「自分の家の近くの町中華店でラーメンを食べ比べてみる」などが楽しかったです。

「友達の実家でインスタントラーメンを食べる」話は、一人の友達の家に行っただけで終わっているのが残念でした。(もう2,3人の家に行ってほしかったです)それでも使うインスタントラーメンの銘柄や、のせる具材がその家独特なものがあったりすることがわかって、そういう細かいところに庶民的な生活感が感じることができました。自分の家では思いもつかないものを、他の家ではラーメンの上にのせていたりすることが面白いです。

「大阪でビールの大瓶が安い居酒屋」の話は著者が2015年に取材した時、大阪市内にビールの大瓶を300円で出している居酒屋が存在していたことに驚きました。330円や350円で出している店も紹介されていましたが、大阪という所は伝統的に居酒屋で瓶のビールを安価で提供していることを知りました。朝10時頃から営業している店がとても多いことも大阪の特徴のようで、独特の酒文化があるようでした。

「家の近くの町中華のラーメン食べ比べ」の話は一番好きな話でした。
商店街の片隅にある地味な店構えの店で出されるラーメンは、見た目もラーメンにのせる具材もどこまでも普通でした。しかし、それぞれのラーメンにはそれなりに違いもあって、みんなシンプルなおいしさがあると書いています。そして最後に以下のようなことを著者は書いていてそれが僕の心にじわっと染みてきました。
「どの店にもお客さんがいたけど、どんな理由で来ているのかはわからない。店の人と親しく会話するでもなくテレビを見たり新聞を広げながら食事をして帰っていく。おそらく、食べログの点数が高かったからでもないし、友達に紹介されたわけでもないだろう。ただ来ている人達にとって、これらの店で食事をすることが生活の大切な一部になっているのだと思う。」
僕は地元の人に支えられている小さな町中華の店が大好きなので、この感じは少しわかります。
いつも同じ適度な雑踏感で迎えてくれて、テレビがついていて新聞がテーブルに置きっぱなしになっている店の居心地の良さはとても落ち着ける場所でもあります。そして長年変わらないラーメンやギョウザの味はとてもホッとした気持ちになります。たぶん、みんなそれを味わうためにそういう店に行くのだと思います。そしてソバ屋や喫茶店にもそういう何かがある店が多いと僕は思ってます。

この本で取り上げていることは、ある意味どうでもいいことのように思えますが、実は人々がささやかに暮らししていくなかで、当たり前に通り過ぎていってしまうことの中に、楽しいことやワクワクすることがたくさんあることを教えてくれます。若い人から熟年世代まで楽しめる本だと思いました。


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