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桝野浩一著(集英社文庫)

歌人の桝野浩一さんが書いた小説ということで、「短歌」が話の中心にあります。
短歌を英訳した「ショートソング」というタイトルがそのことを表しています。
主な登場人物は、二十歳の時に短歌の大賞を取ったけどその後はぱっとしないプレイボーイの伊賀寛介(25歳)と彼の恋人で大学生の須之内舞子、そして、須之内舞子の大学の後輩で日本人とカナダ人のハーフの国友克夫です。伊賀寛介と須之内舞子は同じ短歌結社に所属していて、須之内舞子がその短歌結社の集まりに国友克夫を連れていったため、伊賀寛介と国友克夫の短歌と複数の女性を挟んだ少し変わった交際も始まります。

この小説は国友克夫と伊賀寛介が、一話ごとにそれぞれといった一人称で自分の心の内を語っていくといったスタイルで構成されているところが面白いです。(一話は短い)

全体的には青春恋愛小説短歌の世界観を注入したような話ですが、短歌という芸術の持つ自由で深い所を表現する手段として、著者は性的な描写を多く用いています。僕にはそれが多すぎるように感じました。

僕はは青春の深層心理の中で、人と人はどういうふうに繫がって離れていくのかを、登場人物たちの心の交流の中に読みたかったです。しかし、性の中に真実が隠れているという考え方もあるので、このあたりは意見の分かれるところだと思いました。(男女の付き合いに性的なものが付いて回ってしまう難しさがあるからです)
それは理性と本能という問題でもあると思いますが、僕のような凡人にはそこから先の答えを導き出す能力は残念ながらありません。

話の中に登場人物たちが作った短歌がたくさん出てくるので、短歌に興味があったり好きな人には楽しく読める小説です。全て、青春時代の短歌なので、若い読者には心に響く歌があると思います。

この小説の主な舞台は東京の吉祥寺で、その吉祥寺のカフェや喫茶店がとてもたくさん出てきます。書かれたのが2006年なので今では無くなってしまった店もかなりあると思いますが、吉祥寺という街が青春の舞台としてよく合っていることを改めて感じました。(2006年当時に吉祥寺によく行っていた人は店の名前に、懐かしくくてノスタルジーを感じてしまうことでしょう)
たぶん吉祥寺の若者文化が始まったのは50年くらい前ではないかと思いますが、大学生などを中心に多くの若者の出会いと別れ青春ドラマが繰り広げられた街でもあるので、そんなことを思い浮かべながら僕は読みました。(近くに、井の頭公園という素晴らしい公園もあるし、その入り口には安くて美味しい有名な焼き鳥屋さんもあります)

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