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古沢和宏著(太田出版)

著者の古沢さんは文学が好きで古本を買い集めている訳ではないと最初に書いてます。たまたま出会った痕跡本に面白さを感じて痕跡本の収集を始めた人でした。
そして普通の人よりも妄想癖が強いために、本に残っている痕跡を見て、前の持ち主の事をあれこれと想像するのを至福の喜びとしています。

そのため、この本の中には6本の古沢さんが妄想した物語が所々に挟まれていますが、それは何とも言えない違和感とユーモアが混在していて楽しくて読むことができました。

古書店で古本を買ったことのある人なら、文章の横に赤線が引いてある本を買ってしまった経験を持つ人はある程度の割合でいると思います。しかし、赤線に留まらず短い言葉や文章を余白や背表紙などに書いてある本も古書店に入ってくるようです。何かを書いてしまった本を古書店に持ち込んでしまう感覚が僕にはわかりませんが、何かの手違いだったり書いた事を忘れてしまったから起きることでしょう。それも人間らしさで、そのことも一つのドラマかもしれません。

この本にはいろいろなパターンの痕跡本が紹介されています。
そして、本の余白に書き込まれた自作の俳句や童謡の歌詞自分の心のつぶやき的な言葉などはとても文学的なものを感じました。
それから面白いと思ったのは、本の間に挟まれていた様々な紙片の紹介でした。古沢さんはそこから前の持ち主の生活を妄想しています。

最後に「千本ノック」と称して28冊の痕跡本の写真と短い解説を連続して紹介していますが、それは特に見応えや読み応えがありました。それは小説を読んでいる時と同じように、自分の知らないところで人生を歩いている人たちの、心のひだを感じることができて感動的でした。

痕跡本の世界はごくごく一部のマニアがいるようですが、今よりもう少しファンが増えると古書店などで痕跡本のイベントが広く行われて(古沢さんは各地のブックフェスティバルなどに出向いているようです)、マニア同士で交換会などが開かれるようになると、この本に紹介されているよりもっと凄い痕跡本が発見されることでしょう。そうなったら、古沢さんに続編を書いてほしいと思いました。

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