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酒井順子著(光文社文庫)

酒井順子さんが日本国内をさまざまな形で鉄道旅行した様子を書いた本です。
酒井さんは「乗り鉄」の人だと思いますが、車両や車窓に際立って知識が豊富ではないのところが僕にはリラックスして読むことができました。それは、僕も酒井さんと同じように「基本、乗っているだけでうれしい派」だからだと思います。

最初の話が「雪見列車」のことだったので、これは面白そうだとすぐに引き込まれました。
その行程は、福島から奥羽本線で米沢まで行って一泊、翌日は米坂線で坂町へ行き、その後羽越本線白新線で新潟へ出るというものでした。
東京ー福島間、新潟ー東京間は新幹線です。
米坂線は日本一の豪雪線らしいと前口上で書かれていましたので、興味がさらに膨らみました。

二月の旅でした。奥羽本線の福島駅を出て、市街地を抜けた辺りから急に雪山が見えてきたと書いています。かつてこの路線は四連続でスイッチバック駅があったことで有名だったそうです。(その頃に行ってみたかったと思いました)
宮脇俊三さんが著書「鉄道旅行のたのしみ」の中で、スイッチバック時代の「峠駅」では駅のホームに力餅売りがいたことを紹介していたようです。そこで酒井さんは峠駅で降りて、以前にも訪ねた「力餅屋」に雪の中を歩いて行きました。行ったらご主人が雪おろしをしていたそうです。この店で酒井さんは餅や山菜がどっさり入ったお雑煮を食べました。(雪景色を歩いた後に食べれば、さぞやおいしかったことでしょう)ただ、次の電車を気温が零度の中でしばらく待つのは大変だったようです。

米沢で一泊して、翌日乗った米坂線の様子は次のように書いています。
「しばらくは平坦な米沢盆地を走りました。雪の固まりが車体にあたる音。窓のわずかな隙間から入って顔に当たる氷の粒。窓の外は白一色。宇津峠の辺りから、周囲の景色は山深くなっていきます。川が水色に凍っているの。スローモーションのように、雪が森の木の間をおちていくの。(中略)列車に乗るのは、映画を観るのと似ているのです。」
僕も二月になったら米坂線に乗りに行こうと強く思いました。

次に気なったのもやはり東北地方の旅でした。それは秋の陸羽東線(奥の細道 湯けむりライン)の車窓から見る鳴子峡の紅葉です。鳴子峡は山形県の新庄から行くと鳴子温泉駅の手前にある渓谷で、新庄から約1時間です。酒井さんが乗った電車は事前に車内アナウンスで運転士さんが「鳴子峡では、時速25キロの徐行運転を実施いたします。」と放送し、手前のトンネルに入ると「このトンネルを出たら鳴子峡なので、いよいよ徐行運転に入ります」といったことを運転士さんが再びアナウンスしてくれたようです。この本の中では酒井さんは特に観光列車に乗ったと書いていないので、紅葉季節のサービスとして徐行運転を陸羽東線はしているかもしれませんが、僕はアナウンスや徐行運転がなくても紅葉の季節に一度は乗ってみたいと思いました。
窓の外の絶景を酒井さんは「眼下は渓谷、その岩肌のところどころに、深紅だの黄金色だのに色づいた木々がちりばめられている。」書いています。
インターネットで「鳴子峡」を検索すると、列車が山の中腹あたりにかけられた鉄橋を渡っている写真が出てきました。そして、その列車は紅葉に包まれるようにして走っていました。
山の中を走る陸羽東線ならではの景観だろうと思いました。

その他に、今は廃線になった「鹿島鉄道」「名鉄岐阜市内線」に乗り行き、廃止になった「あさかぜ」「さくら」に往復で乗るということもやっています。
また、「SLあぶくま号」に乗ったり、撮り鉄をやったりした話もよかったです。