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この本は1975年単行本で出版された後、2004年に河出文庫から再出版されました。
そのため、紹介されている映画は1970年代前半のものが多いです。しかし、著者の池波正太郎さんが少年時代に見た無声映画についても何本か説明しています。少年時代に見た映画のことをとてもよく覚えているのは、池波正太郎さんが無類の映画好きで、「10日も映画を見ないでいると、生理的な飢餓感をおぼえ、いても立ってもいられなくなってくる。」と書いています。この本を書いた当時は1ヶ月で15本くらい試写会や劇場に行っていて、テレビの映画を含めると月に50本くらい見ていると言っています。(1960年代は試写会、劇場で30本も見ていたそうです)

池波正太郎さんは小説家になる前に、新国劇の脚本を書き、演出もやったりした人なので普通の映画好きの小説家とは見方も少し違うように感じました。
そのため、見た映画の感想は個人的な趣味ではなく、もう少し大局的に見ていて、映画の歴史、監督や俳優の過去の作品などの話を織り込みながら冷静に評論しているところが、この本の味わいになっています。
そして、良い映画はほめますが、よろしくないと思ったものは遠慮なく指摘しています。
そのため、この当時の日本映画についてはどちらかと言えば厳しい意見を述べています。

例えば無声映画の頃の時代劇には品格があったと言っています。
鞍馬天狗が敵と向かい合った時「虫が、鳴いてますねえ」と相手に語りかけるシーンについて詳しくその良さを書いてます。(鞍馬天狗は戦いたくない事をこのセリフが暗示していて、そこに情緒があるという説明に読めました)

そうかと思うと最新のアメリカ映画の良いものはとても称賛していて、その辺りに池波正太郎さんの心の柔軟さを感じることができました。

また後半は日記形式になっていて、池波正太郎さんが試写会の帰りに、銀座、日本橋、浅草などで寿司、天ぷら、洋食、蕎麦、などを食べて家に帰ることが書かれていて、相変わらずの食道楽ぶりも書かれてそこのところも楽しめます。

「鬼平犯科帳」という稀代の時代小説を書いた池波正太郎さんの映画の話は、とても面白く読めました。


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