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簡単・最近読んだ本の紹介「途方に暮れて、人生論」保坂和志著(草思社)

保坂和志著(草思社)

タイトルは「途方に暮れて」ですが、保坂さんは全然途方に暮れていません。
「あとがき」にこの本がどんな本かよくわかる説明が書かれていますので、その文章を書き出してみます。
『とにかく、今はおかしな時代なんだから生きにくいと感じない方がおかしい。生きにくいと感じている人の方が本当は人間として幸福なはずで、その人たちがへこんでしまわないように、私は自分に似たその人たちのために書いた』
というものです。

保坂さんの小説の登場人物は社会に対して頑張らない人がほとんどで、このエッセイもそのスタンスで書かれいますが、小説より具体的に頑張らないことの意味や理由について書かれています。
そして、青少年から高齢者までのどの年代の人が読んでも励まされると思います。

また、教養が人間を支えていて、教養の中核になるのは文学や哲学だという考えを基に次のように補足しています。
『知識・教養というのは最終的に、他人からほめられるなど望まないようにその人を変えてゆく。他人からほめられるとかけなされるとかそんなことはどうでもよくて、際限のない知識の世界にその人を引き摺り込むものなのだ』

保坂さんは、何かが見えてくるまでにはとても長い時間がかかるのだから「ゆっくりやっていこう」と提案しています。そういう大器晩成的な見通しも生きにくい時代をやっていく中で必要ではないかと言っているように僕には読めました。

繰り返しになりますが、どの世代の人が読んでも心が勇気づけられる本だと思います。

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〈読鉄〉鉄道に関する本の紹介「にっぽん鉄道100景」野田隆著(平凡社新書・2013年初版)

野田隆著(平凡社新書)

乗り鉄の専門家の野田隆さんが紹介する日本国内の鉄道100景の本です。
僕が気になった路線を書き出します。

「釧網本線」

オホーツク海沿岸を走る唯一の路線で、夏は原生花園といういろいろな花が咲き乱れる場所がよくて、冬は流氷を見る観光列車の「流氷ノロッコ号」が走ります。また、北浜駅はホームの目の前が海で、ホームのはずれには展望台もあるしうです。そして、無人駅ではあるけど「停車場」という名前のレストランが入っていてそれもいいと書いています。
オホーツクの海原を充分に堪能できるそうです。

「羽越本線」

村上~鼠ヶ関の海岸線は笹川流れと呼ばれる奇岩や絶壁の続く絶景風景を見ることができます。
この絶景をゆっくりと観賞したければ、桑川駅で途中下車して遊覧船に乗るという方法があるそうです。

「根室本線」

この路線で見ることのできる十勝峠越えの車窓日本三大車窓のひとつです。札幌方面から東に向かい、新狩勝トンネルを抜けて大きなS字カーブを描きながら峠を下っていくと、雄大な十勝平野を見ることができるそうです。その景色は日本離れして北海道らしいと書いています。。

木次線(島根県)

秘境的な雰囲気と三段スイッチバックが楽しめる路線です。
三段式スイッチバックを体験できるのは出雲板根駅です。

肥薩線(熊本県・鹿児島県)

スイッチバックのある真幸駅があります。また、真幸駅と隣の矢岳駅の間が日本三大車窓の一つになっていて、えびの高原と霧島連山を見渡すことができるそうです。大畑駅ループ線とスイッチバックがある素晴らしい駅です。

次は、駅舎や駅の様子で興味深かったものを紹介します。

阪急電鉄梅田駅

この駅から、京都線、宝塚線、神戸線という三つの路線が集結しているため、九線十面の櫛形ホームがずらりと並んでいます。このホームに阪急の栗色の電車が同時に並んでいる様子は見応えがあるようです。
しかも朝のラッシュアワーを過ぎると、三本の特急電車が10分おきに同時発車するので、かなり壮観らしいです。

東武鉄道浅草駅

東京スカイツリーの開業に伴って、アールデコ様式の建物になりました。このアールデコ様式は1931年の駅ビル完成時の姿に戻したものだそうです。(途中で違う形に改装されていた)
東武浅草駅は正面玄関を入って階段やエスカレーターで2階に上がると、改札口の先にホームが並んでいます。ここは天井が低くて先の方ではホームが急カーブしていて、とても特徴的な駅だと書いています。
また、ホームと電車の間の隙間が大きいために、渡り板が置いてあるということも紹介しています。
僕は浅草駅から隣のスカイツリー駅(業平橋駅)の間は、とても大きくゆっくりとカーブしながら隅田川を見下ろしながら走るという印象があります。今は改良工事が行われているかもしれませんが、あの車窓はたいへんな絶景でした。

原鉄道模型博物館

2012年の夏にオープンしたそうで、見どころはその模型が両手で抱える程大きいことだと書いています。
日本国内だけでなく、ヨーロッパ、アメリカ、オーストリアなど世界各国にまたがり、古典的な蒸気機関車もあるそうです。
巨大なジオラマに立つ人々もそれぞれ表情があって、見ているといつの間にか鉄道模型の世界に吸い込まれてしまうらしいです。

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〈読鉄〉鉄道に関する本の紹介「旅するこころ」岡田喜秋著(講談社文庫・1981年初版)

[岡田喜秋]の旅するこころ (講談社文庫)
岡田喜秋(講談社文庫)

岡田さんは日本交通公社が出版していた旅行雑誌「旅」の編集に1947年から1971年まで携わっていた人で、その後は紀行作家として活躍された方です。
雑誌「旅」の編集者をしている時、旅行好きで有名な文筆家の阿川弘之さんにたくさん原稿を依頼しています。それらをまとめた本が「お早く御乗車ねがいます」というタイトルで中央公論社から出ていますが、この時の中央公論社の編集者があの宮脇俊三さんでした。この話は「お早く御乗車ねがいます」のあとがきに書かれています。たいへんな人達が揃ったものだと感心します。
この本では1980年当時の、日本人の旅についての考察が書かれています。特に鉄道について書かれているわけではないですが、乗り鉄旅の途中で夜間の移動になった時などに読んでみると面白いと思って紹介します。

前半は、欧米人と日本人は歴史的な差異から旅のスタイルが違うという話や、高原などにできた、人によってつくられた人工的な「第二の自然」をどう考えるかということが語られています。
これらは、普段あまり考えずに旅をしている僕にとって、観光化された国立公園などに行った時、一瞬立ち止まるきっかけになりそうです。

旅のプロの岡田さんが好む小京都が紹介されていました。
角館、横手、盛岡、高山、金沢、三次(みよし)、津山、津和野、萩、山口、伊予大洲、島原、人吉、
日田、豊後竹田
です。
これらの街は現在ではそれぞれ、「重要伝統的建造物群」、「景観重要建造物」、「歴史的街並み景観形成地区」、「歴史的建造物」などに指定されています。岡田さんは城そのものより城下町の趣きのほうが好きだったようなので、今の状況は喜んでいると思います。
僕は半分も行ってないですが、小京都に魅力を感じる一人です。

それから各地の旅行に適した季節を教えてくれています。
北海道は初夏、東北は初夏か秋、信州は夏、瀬戸内海は春,南九州は冬がいいそうです。
北海道は特に6月がよく、梅雨がないから。東北は秋の十和田湖や裏磐梯の湖がよく、信州は高原なので夏が涼しくて快適であり、四国や南九州は本州がまだ寒い頃にいち早くナタネの花が咲く早春が最も快適だと書いています。これは素直にうなずける話だと思いました。

岡田さんは船旅を推奨しています。理由は移動に時間がかかるから良いのだという考えです。ジェット機のような人間の生理に反したようなスピードの乗り物は、文化の進歩が生んだ悲劇だとまで言っています。
旅は目的地だけではなくて、途中に起きる自分の心の変化や、出会った人との心の交流などが旅情だと書いてます。そういう話だと、現代ではローカル線の旅はなかなかいい旅かもしれないと思いました。

長く旅雑誌の編集をしていた著者の岡田さんが、本のタイトル通り、「旅をするとはどういうことなのか」を書いた本だと思います。

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〈読鉄〉鉄道に関する本の紹介「テツはこんな旅をしている」野田隆著(平凡社新書・2014年初版)

野田隆著(平凡社新書)

「乗り鉄」派である著者の野田隆さんが、アイデアに溢れた乗り鉄旅を紹介している本です。
ただ乗るだけでなく、目的と思惑を持って旅をすると、面白い鉄道旅になることを教えてくれます。
僕が実行してみたいと思ったものを書きます。

最初は、豊橋から姫路まで私鉄だけで行ってみるという旅です。
豊橋から名古屋まで名鉄で行き、その後は近鉄で大阪の難波までいきます。次は阪神なんば線で尼崎へ、そこから阪神本線に乗り換えて西宮へ、ここで山陽姫路行きに乗り換えて(クロスシートの山陽電鉄の車両に乗るため)阪神本線の終着駅の元町を通り過ぎてそのまま阪神神戸高速線に乗り継ぐ形で終点の西台まで行きます。ここからは山陽電鉄になり終着駅の山陽姫路に到着します。
近鉄の名古屋ー難波間は、途中で三重県の布引山地を通るため、東海道本線とは違う景観の車窓を見ることができるでしょう。また、山陽電鉄の車窓も、JR山陽本線との趣きの違いを感じることができるかもしれません。

次は、三河湾の電車とフェリーを組み合わせた旅です。
名鉄名古屋駅からスタートします。名鉄河和線で終点の河和まで行き、駅から徒歩7分で河和港へ到着します。ここから、フェリーで渥美半島の伊良湖岬へ海上を渡り、豊橋鉄道の三河田原駅までバスで移動します。豊橋鉄道に乗って終着駅の新豊橋へいきます。この駅はJRの豊橋駅と隣接しているため家路への乗り換えが楽です。
フェリーの乗船時間は約1時間です。途中の日間賀島は20分篠島は30分で河和港から行けます。時間に余裕があれば、日間賀島か篠島の旅館や民宿に泊まって、三河湾の海鮮料理を楽しむのも楽しいと思いました。
この辺りは三河湾国定公園になっている景観のいい所なので、通り過ぎるだけの旅ではもったいないかもしれません。
インターネットで調べたら、名鉄から名鉄電車とフェリーと旅館の宿泊がセットになった旅行セットを販売しているようなので、これを利用すればリーズナブルに快適な旅ができそうです。

次は、北東北の3セクを乗りまくる、ぐるり旅です。第3セクター鉄道を中心にした旅というのが興味深いです。
青森から第3セクター青い森鉄道に乗り、野辺地、八戸を経て終点のの目時駅まで行きます。この後、これも第3セクターのIGRいわて銀河鉄道に乗り換えて盛岡まで行き、JRの田沢湖線に乗り換えて角館まで行きます。そしてまた第3セクターの秋田内陸縦貫鉄道に乗って終点の鷹巣まで行き、ここから奥羽本線で新青森に戻るという旅です。北東北らしい沿線風景や、ローカル線ならではの車窓が同時に楽しめるように思います。初夏の新緑や秋の紅葉が待っているかもしれません。
鉄道地図を見ると鷹巣から奥羽本線に乗った後に大館から花輪線に乗り、終点の好摩駅まで行き、盛岡に戻るというのも面白そうです。花輪線は十和田八幡平四季彩ラインという、とても魅力的な別名を持っていて気になります。また最近人気の五能線もすぐ近くを走っているので、数日かけてこの辺りの鉄道を乗りまくるのも、趣向の一つではないかなと思いました。

この他に30種類ほどのひと工夫した鉄道旅が紹介されています。読む人の興味次第で、いろいろと面白く読める本だと思いました。

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〈読鉄〉鉄道に関する本の紹介「鉄道旅行 週末だけでこんなに行ける!」所澤秀樹著(光文社新書・2013年初版)

[所澤 秀樹]の鉄道旅行 週末だけでこんなに行ける! (光文社新書)
所澤秀樹著(光文社新書)

鉄道のことだけでなく地域性についても書かれていて、そこも面白かったのでそこから紹介したいと思います。
これはよく問題になることですが、東海道本線の駅そばで関東風、関西風の境界はどこかということについてです。所澤さんは米原駅ではないかと書いてます。ダシ汁だけでなく、天ぷらうどんの上にのっている天ぷらも天かすを円盤状に固めた関西風にしっかりなっていると付け加えています。天ぷらも、関東と関西では違いがあることを、今まで気にしたことがなかったのでビックリしました。
面白いのは、札幌など北海道に行くと、ダシ汁は色こそ黒いけど昆布だしになり、天ぷらも関西風の天かすを円盤状に固めたものになるそうです。北海道と関西の間に不思議なつながりがあることを知らされました。

言葉のアクセントについても考察しています。近畿地方のアクセントは「京阪式アクセント」と呼ばれるもので、近畿地方二府四県と三重県、北陸地方、四国地方がその範囲らしいです。
しかしどういう訳か、近畿地方の西の中国地方に行くと「東京式アクセント」になるそうです。
例外として、四国地方は総じて京阪式アクセントなのに、宇和島付近など愛媛県西南部とそれに隣接する高知県西部東京式アクセントだそうです。この本の中では書かれていませんが、何か理由があると思いますので、宇和島に行く時があればそれを気にしながら散策してみたいです。
広島県に行くと、だいぶ方言が強い印象ですが、アクセントは意外と東京式なのは驚きました。

寝台特急の旅のレポートを書いていてそれが面白いです。
一つ目は、北海道への旅で、往復「北斗星」を利用します。週末旅行がテーマなので、金曜日の夜に東京を出て、月曜日の早朝東京に帰ってきます。
北海道では、「スーパーとかち」で千歳線石勝線を走り、新得駅から根室本線で富良野へ行きました。その後、ラベンダー畑を見ながら、富良野線で旭川へ出て、最後に「スーパーカムイ」で函館本線を走り札幌へ戻るというものです。
この中でが僕が特に乗りたいと思ったのは、石勝線です。「車窓には開けっぴろげな牧草地が続き、民家はほとんど見あたらず、交差する道路はどこまでも一直線で、その遥か先に蒼い山脈が細長く横たわっているような景色を見ることができる」と書いています。本州では味わうことが出来ない景色だとと思います。

もう一つは往復「サンライズ瀬戸」を使った九州、四国の旅で、これもかなり充実しています。
金曜日の夜10時に東京駅を出発、土曜日の朝に岡山に到着して新幹線で熊本へ行きます。
熊本から豊肥本線日豊本線で別府へ行き、宇和島運輸フェリーの夜行便で愛媛県の八幡浜へ日曜日の早朝に到着します。
予讃線で宇和島へ、予土線、土讃線を乗り継いで琴平まで行きます。その後、高松琴平電気鉄道で高松へでて、「サンライズ瀬戸」で月曜日の早朝に東京に帰る行程でした。
岡山から実質二日間という時間でこれだけ周れることに驚きました。
この旅の白眉は、豊肥本線の立野駅のスイッチバックとその先の阿蘇の火口原の風景だと思いました。
阿蘇駅で下車してバスでロープウェイ乗り場のある阿蘇山西駅へ行き、ロープウェイで海抜1258メートルの火口西まで登ると壮観な景色が楽しめるそうですが、この忙しい旅で、列車を降りてバスに乗り換え絶景地へ行くというバイタリティーはすごいと思いました。(阿蘇山の噴火活動の影響で、現在ロープウェイは運行されていないようです)
豊肥本線も楽しみが多そうで興味深いです。

最後に「東海道五十三次 宿場巡り」というタイトルで、東海道の宿場の面影を残している町を10か所ほど紹介しています。最寄り駅からの行き方もていねいに紹介されているので、宿場町に興味のある人には面白いと思います。

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〈読鉄〉鉄道に関する本の紹介「あの映画に、この鉄道」川本三郎著(キネマ旬報社・2018年初版)

川本三郎著(キネマ旬報社)

この本には約240本の映画と、その画面に登場した鉄道が紹介されています。
男はつらいよ」シリーズは日本中の鉄道風景が映画の中で登場したので、随所に登場します。
また、昭和時代の映画は作られた本数が多いので、語られる話も多いです。
日本映画と鉄道が好きな人には良書だと思いました。
この本を読んで気になった映画を、レンタルビデオやネットフリックスなどで見てみましたので、その感想をここに書きたいと思います。

「おもひでぽろぽろ」(1991年・ジブリ映画)

アニメですが、寝台特急「あけぼの」が登場し、この映画が作られた1990年頃の山形駅や山形市街が味わい深く描かれていました。あの時代の質感がよく出ていて、そこが良かったです。
エンディングでは仙山線の高瀬駅と隣の山寺駅が出てきますが、高瀬駅のローカル線らしさと、上下線の列車がホームに並ぶ山寺駅のちょっとした賑わいがとてもリアルに感じられました。
主人公の女性が子供時代を回想する場面では、昭和40年代の東京の商店街が登場します。電信柱の町名表示が「練馬2丁目」となっていたので、西武池袋線の沿線にある駅前商店街がモデルかなと思いました。

「砂の器」(1974年・松竹)

この映画はこの本の中で、何回も紹介されています。映画は当時のそうそうたる俳優が出演していて、原作や脚本の完成度の高さもあってやはり名作です。
刑事が捜査で鉄道に乗って地方に移動するので、その当時の鉄道や駅がしっかり画面に出てきます。「かめだ」という地名がキーワードになります。そのため刑事は羽越本線の特急列車か急行列車で移動して、地方の駅らしいたたずまいの羽後亀田駅に到着します。
次は山陰本線宍道駅とそこから出るローカル線の木次線出雲三成駅亀嵩(かめだけ)駅が登場しますが、実際には亀嵩駅の駅舎は二つ先の八川駅を撮影しているそうです。
刑事が乗り換え列車を待つ宍道駅のホームの雰囲気がとてもよかったです。
1974年当時のエアコンのついていない夏の列車内の様子や、地方の古い駅の情緒がとてもよくわかる映画でした。

「RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語」(2010年・松竹)

島根県の一畑電車が舞台の映画です。ローカル線の小さな駅がいくつか出てきて、それがとても風情があります。特に、宍道湖のすぐ前にある駅の風景が素晴らしいです。
エンディングでは遠景から一両編成の電車が田園風景の中を走って行く姿が長く続いていきますが、ローカル線の味わいがとてもよく出ていました。
この映画は、「仕事って何だろう」と終始問いかけてきて、僕も自分のことをいろいろ考えました。
主人公の生き方にとても共感しました。

「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たち」(2011年・松竹)

間もなく定年を迎える、富山地方鉄道の運転士の話です。美しい田園風景を走る列車と、その後ろの雪をいただいた立山連峰の壮観さが素晴らしいです。その画面を見ただけで、富山地方鉄道に乗りに行きたくなります。
かつて西武鉄道で活躍していたレッドアローや、京阪電鉄の特急車両も何回も登場します。
また、富山駅岩瀬浜駅の間を走る富山ライトレールや、路面電車富山市内電車も途中で映し出されていました。
この映画では、ストーリーに寄り添った富山らしい沿線風景がとても味わい深く描かれていますが、特に小さな駅の情緒が絶妙だと思いました。(これは前作「49歳で電車の運転士~」と同じです)

話が横にそれますが、酒井順子さんが「路面電車の走る城下町が好き」と書いていたと思います。路面電車と城下町の落ち着いた風情が好きなのだなと思います。僕は、城下町富山を走る路面電車に乗ったことがありますが、とても気持ちのいい電車でした。記憶なのであいまいですが、富山城のすぐ横を走ったような気がします。
北陸地方は福井市、高岡市、富山市と主な城下町に路面電車が走っています。金沢市にないのが残念です。金沢駅から兼六園へ向かう路面電車がお城の横を走っていたら、映画やドラマで頻繫に使われそうに思います。

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〈読鉄〉鉄道に関する本の紹介「鉄子の全国鉄道ものがたり」矢野直美著(北海道新聞社・2011年初版)

矢野直美著(北海道新聞社)

著者の矢野直美さんは「ゆれて ながれて であう 幸せな瞬間」をテーマに鉄道の写真を撮り、文章を書いている女性です。酒井順子さんと同じように、やわらかい視線で鉄道と向き合っている感じが読んでいて心地いいです。

取り上げているのは、「トロッコ列車」「路面電車」「SL機関車」「美しい車窓のローカル線」「特徴的な駅舎」などです。
特に面白かったものを書いてみます。

青森県・津軽鉄道「鈴虫列車」は社内にスズムシの入った虫かごが置かれているようです。スズムシの「リィリーン」という鳴き声を聞きながら窓の外に目をやると、黄金色の稲穂や、真っ赤なリンゴ畑を見ることができると書いています。季節は9月後半から10月にかけてです。
お客さんにスズムシの鳴き声を聴いてもらうことを、よくぞ考えたものだと思います。ちなみにスズムシは、社員たちによって大切に育てられているスズムシらしいです。

千葉県・いずみ鉄道は春になると沿線の半分以上に植えられた菜の花に包まれるそうです。
矢野さんが下車した夕暮れの総元駅では、黄色い菜の花が西日をあびて金色に輝く光景に見とれたそうです。
菜の花は社員の人達が種をまき、肥料を入れ、開花の後は翌年のために種を収穫する作業を繰り返しているようです。その様なローカル線ならではの努力によって、乗客は春を楽しめるようになったのです。

岐阜県・明知鉄道食堂車付急行列車を走らせています。地元特産の「寒天列車」をはじめ、春の「山菜列車」、秋の「きのこ列車」、冬の「じねんじょ列車」と季節によってメニューを変えて走っているそうです。岐阜県は山の多いところなので、山の味覚が季節ごとに楽しめる地域性を、うまく利用した急行列車だと思いました。僕は特に「じねんじょ列車」に乗ってみたいです。
少し前にテレビで、明知鉄道の沿線は里山風景がだいぶ残っていると放送していたことを思い出しました。また、終点の明智駅近くには、大正時代の街並みを保存した「日本大正村」というものがあって、こちらも同じテレビで紹介していました。
始発駅の恵那から中央本線を少し北上すればすぐに木曾街道沿いの駅や町ありますから、一日かけてこの辺りを散策して、レトロな雰囲気を味わうのは面白いと思います。

高知県・土佐くろしお鉄道(ごめん・なはり線)は2002年に開業した新しい鉄道です。そしてほとんどが高架線なので眺めがとても良いそうです。特に、西分駅ー赤野駅間は海岸沿いに約4キロにわたって美しい松林が続き、夜に月見をするのに最高な列車だそうです。
矢野さんが下車した西分駅は、波の音だけが聞こえてくるような静かな無人駅で、夕暮れ時には海の色が茜色からピンクや藍色に代わっていく様子を見ることができるそうです。

この様に女性らしい少しロマンチックな感受性を持って、この本は書かれています。
デジタル時代になって、いつも何となく忙しい現代こそ、本書で書かれているような、心身をゆったりとさせた旅が一番いいと思います。特に名所旧跡に行かなくても、日常から一歩外に出て静かな気持ちで車窓を見れば、こんなにも豊かな時間を持てることを教えてくれる本でした。
気がつけば、菜の花畑、波の音、夕暮れの海、スズムシ、月見などは一人で静かに味わえるものばかりです。矢野さんは一人旅が好きな根っからの旅人で、とても魅力的な人だと思いました。

ここでは書きせんでしたが、矢野さんは札幌に生まれた人なので、北海道の鉄道についても多く紹介しています。北海道の鉄道に興味がある人にもこの本は面白いと思います。

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〈読鉄〉鉄道に関する本の紹介「シニア鉄道旅のすすめ」野田隆著(平凡社新書・2018年初版)

野田隆著・平凡新書

シニア向け中心に割引切符から、観光列車、レストラン・カフェ列車、魅力的なローカル線などが紹介されています。

割引切符ではJR四国の「アクティブ55四国フリーきっぷ」「バースデイきっぷ」が便利そうだと思いましたが、インターネットで調べたら「アクティブ55四国フリーきっぷ」は無くなり、年齢制限がないため割高になる「四国フリーきっぷ」を使うようになるみたいで残念です。
「バースデイきっぷ」は今も発売していて、誕生月の連続3日間、JR四国全線と土佐くろしお鉄道全線の特急列車が乗り降り自由になるきっぷです。グリーン車用は13,240円、普通車自由席用は9,680円です。これを使えば四国一周の旅がリーズナブルにできると思いました。(3人まで同伴者も買えます)
ちなみに「四国フリーきっぷ」の値段は16,440円です。
期間限定ですが、2021年10月1日から12月28日まで利用できる「四国DC満喫きっぷ」というのもあります。土曜、日曜、祝日を1日以上含む連続する3日間という制約はありますが、JR四国全線の特急列車自由席と、土佐くろしお鉄道の普通列車やJR四国バスの路線バスに乗り降り自由です。料金は10,000円です。
JR四国はこの他にも、いろいろな割引切符を出しているようです。

魅力的なローカル線は「西武多摩川線」「流鉄・流山線」「関東鉄道・常総線」「JR八高線」「東海交通事業・城北線」「水間鉄道」「叡山電鉄」を紹介しています。
どの列車も特徴的で面白そうですが、僕が一番乗ってみたいと思ったのは名古屋の「東海交通事業・城北線」です。JR名古屋駅の一つ隣の枇杷島駅から出ている都会の電車なのに、ワンマン運転で乗客も多くないらしいです。そして電車は高架を走るそうですが、小田井駅あたりはビルの6階に相当する高さを走るらしいので、その車窓を味わいたいと思いました。

「八高線」は高麗川駅から北側はディーゼル列車になり、埼玉県を南北に縦断して群馬県の高崎駅まで行きますが、ロングシートではなくクロスシートなのが、ローカル線らしくていいと野田さんは書いています。逆に高崎駅から乗ると、この先に東京があるということが確かに感じにくくて、そこが魅力的だと思います。
文筆家の吉田健一さんが昭和30年頃に沿線の「児玉」というところへ、菊正と毛抜き寿司を持って旅をしたと、「汽車旅の酒」という本で書いていました。吉田さんは、特に観光地でもない所に、あえて行ってみる旅の面白味を書いていたと思います。好きなお酒とお寿司を持ってローカル線に乗るなかで、作家という職業の人には、文章ではっきり書かなくても、何か見えてくるものがあるのだろうなと読んだ時思いました。
関東平野の西端の景色は確かに独特の味わいがあると思います。

鉄道に詳しい人が、新しい知識を教えてくれる本でしたが、「ローカル線」の話などは旅情を感じることのできる内容だったところがよかったです。

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〈読鉄〉鉄道に関する本の紹介 「沿線風景」原武史著(講談社2010年初版)

原武史著(講談社文庫)

この本は日帰り旅行が多いので必然的に、東京、神奈川、埼玉、千葉の鉄道やバスの話がほとんどです。また、原さんの子供時代の思い出を探しに行く旅ももいくつかありました。

ここでは関東地方以外に行った旅で面白かったことを主に書きたいと思います。

京阪本線は特急電車に普通乗車券だけで乗れて、運がいいと2階建て車両も利用できるというのは驚きました。京都や大阪に住んでいる人には常識でしょうが、関西圏以外に住んでいる人は知らない人が多いのではないかと思いました。僕などは京都大阪間はJRの快速電車がベストだと思っていたので、京都の街中から大阪方面に行く時は是非とも乗りたいと思いました。JRと比べて南側を走るようで、路線図の駅名を見るだけで、近畿地方の歴史と伝統のようなものが感じられました。
関西地方の私鉄は特徴がいろいろあって面白いのではないかと改めて思ったので、今度一日中いろいろな路線を乗り続けてみたいと思いました。インターネットで調べたら「スルッとKANSAI大阪周遊バス」(2800円)というのを見つけました。これはリーズナブルで、便利そうです。                           

信越本線で横川駅の駅弁「峠の釜めし」を食べて、栗、うずら、しいたけ、杏、たけのこ、鶏肉、ごぼう、紅しょうがと、汁のしみたご飯が昔と変わらずおいしいことに満足したと書いています。
これは久し振りに「峠の釜めし」を食べた誰もが思うことだと思います。「峠の釜めし」は「おぎのや」という店が作っていますが、何十年も味やスタイルを守っていることは、旅人には本当にうれしいことだと思います。
そして「おぎのや」は軽井沢駅のしなの鉄道の改札口の横で駅そば店もやっているのです。原さんもすかさず食べますが、予想以上においしくて(JR東日本管内で最高ランクという評価)、汁まで一滴残らず飲み干したそうです。
僕も食べたことがありますが、確かにおいしいです。そう言えば、長野駅構内にある「ナカジマ会館」という駅そば店は、昭和29年創業の老舗で、こちらもおいしかったです。
長野県はさすがにそば処なので駅そばもレベルが高いし、チエーン店が優勢ではないところもいいと思います。

千葉県ですが、JR内房線の話も面白く読めました。
「JR内房線は、君津を出ると単線になり、ぐっとひなびてくる。特急とはいいながら、各駅停車なみに細かく停まるようになる。屋根のないホームと跨線橋、瓦屋根の駅舎。70年代そのままの各駅の風情に、心のなかでよくぞ残ってくれたと叫びたくなる。佐貫町から上総湊にかけて広がる里山の風景や、上総湊で右手の車窓に東京湾が迫ってくる展開も、以前と全く変わっていない。」
という文章を読んで、君津から先に行ってみたくなりました。ひなびたところを車窓から見ると、時間が止まったような感覚になります。
それから、帰りは木更津からアクアラインを通るバスで川崎に帰ってきますが、これも面白そうです。途中の「海ほたる」で食事したり、景色を見たりが楽しめそうです。

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<読鉄>鉄道に関する本の紹介「女子と鉄道」酒井順子著(光文社2006年初版)

酒井順子著(光文社文庫)

酒井順子さんが日本国内をさまざまな形で鉄道旅行した様子を書いた本です。
酒井さんは「乗り鉄」の人だと思いますが、車両や車窓に際立って知識が豊富ではないのところが僕にはリラックスして読むことができました。それは、僕も酒井さんと同じように「基本、乗っているだけでうれしい派」だからだと思います。

最初の話が「雪見列車」のことだったので、これは面白そうだとすぐに引き込まれました。
その行程は、福島から奥羽本線で米沢まで行って一泊、翌日は米坂線で坂町へ行き、その後羽越本線白新線で新潟へ出るというものでした。
東京ー福島間、新潟ー東京間は新幹線です。
米坂線は日本一の豪雪線らしいと前口上で書かれていましたので、興味がさらに膨らみました。

二月の旅でした。奥羽本線の福島駅を出て、市街地を抜けた辺りから急に雪山が見えてきたと書いています。かつてこの路線は四連続でスイッチバック駅があったことで有名だったそうです。(その頃に行ってみたかったと思いました)
宮脇俊三さんが著書「鉄道旅行のたのしみ」の中で、スイッチバック時代の「峠駅」では駅のホームに力餅売りがいたことを紹介していたようです。そこで酒井さんは峠駅で降りて、以前にも訪ねた「力餅屋」に雪の中を歩いて行きました。行ったらご主人が雪おろしをしていたそうです。この店で酒井さんは餅や山菜がどっさり入ったお雑煮を食べました。(雪景色を歩いた後に食べれば、さぞやおいしかったことでしょう)ただ、次の電車を気温が零度の中でしばらく待つのは大変だったようです。

米沢で一泊して、翌日乗った米坂線の様子は次のように書いています。
「しばらくは平坦な米沢盆地を走りました。雪の固まりが車体にあたる音。窓のわずかな隙間から入って顔に当たる氷の粒。窓の外は白一色。宇津峠の辺りから、周囲の景色は山深くなっていきます。川が水色に凍っているの。スローモーションのように、雪が森の木の間をおちていくの。(中略)列車に乗るのは、映画を観るのと似ているのです。」
僕も二月になったら米坂線に乗りに行こうと強く思いました。

次に気なったのもやはり東北地方の旅でした。それは秋の陸羽東線(奥の細道 湯けむりライン)の車窓から見る鳴子峡の紅葉です。鳴子峡は山形県の新庄から行くと鳴子温泉駅の手前にある渓谷で、新庄から約1時間です。酒井さんが乗った電車は事前に車内アナウンスで運転士さんが「鳴子峡では、時速25キロの徐行運転を実施いたします。」と放送し、手前のトンネルに入ると「このトンネルを出たら鳴子峡なので、いよいよ徐行運転に入ります」といったことを運転士さんが再びアナウンスしてくれたようです。この本の中では酒井さんは特に観光列車に乗ったと書いていないので、紅葉季節のサービスとして徐行運転を陸羽東線はしているかもしれませんが、僕はアナウンスや徐行運転がなくても紅葉の季節に一度は乗ってみたいと思いました。
窓の外の絶景を酒井さんは「眼下は渓谷、その岩肌のところどころに、深紅だの黄金色だのに色づいた木々がちりばめられている。」書いています。
インターネットで「鳴子峡」を検索すると、列車が山の中腹あたりにかけられた鉄橋を渡っている写真が出てきました。そして、その列車は紅葉に包まれるようにして走っていました。
山の中を走る陸羽東線ならではの景観だろうと思いました。

その他に、今は廃線になった「鹿島鉄道」「名鉄岐阜市内線」に乗り行き、廃止になった「あさかぜ」「さくら」に往復で乗るということもやっています。
また、「SLあぶくま号」に乗ったり、撮り鉄をやったりした話もよかったです。