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斎藤美奈子+成田龍一編著(河出ブックス)

斎藤美奈子さんは文芸評論家で、成田さんは日本女子大学の教授で近現日本史が専門です。(2016年2月の時点で)
この本にはいろいろな人がそれぞれの専門分野の1980年代とは何だったのかを書いていますが、それらを総括するような感じで、編著者の二人が最初と中盤で二つと最後に(合計4回)、それぞれ社会学者の大澤真幸さん、精神科医の斎藤環さん、小説家の平野啓一郎さん、小説家の高橋源一郎さんと対談していてそこが特に面白かったです。やっぱり、一人で文章を書いたものより話が広く転がって行く感じが読んでいてワクワクしました。

それから、当時話題になった本が写真付きで次々と紹介されているのも良かったです。

それぞれの専門家が政治、経済、美術、ファッション、市民生活など多岐に渡って書いていますが、結局今になって思えば1980年代というのは大きな分岐点だったことがほとんどの分野で指摘されています。ここでは高橋源一郎さんとの対談が一番印象的だったので、それについて簡単に紹介したいと思います。

特筆すべきは田中康夫さんの小説「なんとなく、クリスタル」がとても高く評価されていることでした。当時は人間性よりも物欲優先な内容に、かなりマイナス評価もあったことを覚えています。俗に言う「こんなの小説じゃない」という評価です。
まず、人間もファッションも音楽も同じ高さで書いていることが、かつてなかった小説だったという話になりました。そして、あのふわふわした小説の最後に人口問題審議会が出した「合計特殊出生率」の減少が指摘され、さらに「65歳以上の人口比率」の増加の認識を読者に促していて、さんざん物にこだわった生活を書いておいて最後に日本の未来はまずいよと言っているところが、実はたいへんな小説だったということで対談している三人が合意します。田中康夫さんはその後政治家になったので、やはりこういう問題意識を元々持っていたことが今になってわかります。

「なんとなく、クリスタル」は、若者文化への影響力は当時たいへんなものだったことを思い出しました。芥川賞を取れなかったのは、選考委員の先生達も突然現れたあのカタログのような小説に驚きすぎて、最後の人口問題の提起の意味が今一つつかめなかったのかもしれません。

少し話が変わりますが、高橋源一郎さんが村上春樹さんの小説は、小説家の人が読んでも「わかりにくい」と思う人が実は多いと正直に話してくれました。僕はなぜか救われたような気持ちになりました。

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