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このアルバムはいろいろな人が作詞、作曲に参加していて、今までの松本隆と筒美京平のコンビで作っていった作品とは少し違います。
その顔ぶれは次のようになっています。
作詞家:松本隆 阿木燿子 喜多条忠 
作曲家:筒美京平 宇崎竜童 田山雅充 ケン・田村 山田つぐと 佐藤健 萩田光雄
作詞・作曲家:荒井由実 伊勢正三 イルカ 谷村新司 太田裕美 
編曲者:萩田光雄 筒美京平 
             

発売された1976年という時代を考えると、かなり豪華な顔ぶれだと思います。
レコード会社などが新しい可能性を模索したのだと思います。

松本隆はこのアルバム全12曲の内の5曲で作詞をしていますので、その5曲を中心に見ていこうと思います。

カーテン

松本隆的な言葉 
・泣き顔を見せません 誰も入り込めない 心の壁が欲しいの
・軽い言葉ね「愛」なんて 耳を押え もう信じない
・木枯らしを遮るの だって破けた心 繕う部屋が欲しいの

冬という季節に彼と別れた女性の心の中が詞になっています。
女性は失恋で破れた心を、静かに繕っていこうと自分に言い聞かせているように思えます。
優しくて愛情も深い若い女性の、青春時代ならではの、微妙な心の揺れを書くところが松本隆らしい作品だと思います。

最後の一葉

アメリカの有名な短編小説家オーヘンリーの同名の作品をモチーフにした歌です。
6枚目のシングル曲で、筒美京平のメロディーがとても美しいです。

松本隆的な言葉
・街中を秋のクレヨンが 足ばやに染めあげてます
・別れたほ方があなたにとって 倖せでしょう わがままですか
・三冊の厚い日記が 三年の恋 綴ります

原作の小説を読んでいると、この歌の悲しくてせつない部分がよくわかると思います。
僕の個人的な印象ですが、「オーヘンリー短編集」は文庫本も出ていて、1976年当時の中高生にかなり人気があって広く読まれていたと思います。僕も中学3年か高校1年の頃に読みました。
短い話で最後に大どんでん返しという読書体験は初めてだったので、今も鮮烈に覚えています。
そんな訳で、この歌のタイトルから小説を思い出して聞いた人は多かったと思います。

この詞の中で、「別れた方が あなたにとって 倖せでしょう」と女性が言ってますが、自分がもし付き合っている彼女にこの様な事を言われたら、何て答えるだろうかと当時の多くの男性は考えたかもしれません。この言葉と世界観は、それまでの歌謡曲では出てこなっかったものではないでしょうか。言葉を変えると「あなたを愛しているけど、自分は病気だから他の人を探して欲しい」と言う女性の心はけなげで、松本隆はそれを書きたかったのだと思います。

湘南アフタヌーン

松本隆的な言葉
・旅人の振りして浜辺を横切れば あなた住む町
・くちびるがまだ寒いのは 人恋しさのせいでしょう
・白ペンキめくれたボートが 焦げた夏 名残らせていた
・流木を集めたたき火に ばかだねと泣く いくじなし

ひとつ前のアルバム「手作りの画集」に入っている「オレンジの口紅」では、夏に去年の夏の海辺の恋を思い出している歌でしたが、今回は冬に夏の海辺の恋を、現地に行って哀しく思い出しています。
松本隆の自伝的小説「微熱少年」の中でも、夏の湘南の海を舞台にしたエピソードが書かれているので、松本隆にとって、自身の青春と湘南の海は繋がっているのかもしれません。
それはセンチメンタルノスタルジーな気持ちにさせてくれるものだと思います。そういうものが無ければこのような詞は書けないと思うからです。
男女にかかわらず、夏の海に青春の思い出を持ってる人はかなり多いはずです。この歌は、そういう人達の共感を呼ぶ歌になっています。

一つの朝

松本隆的な言葉
・「好きだよ」と言わないで ふたしかな言葉です
・朝焼けを見る人は 淋しがりだという その横顔を私は信じたい
・道ばたの石ころを 何気なく投げたら 倖せの影がキラリとのぞいたよ

始まった恋とその彼に対する不安を歌っています。しかし、最後に倖せの影を見つけたところで終わっているので、聞いてる方もなぜか安心してしまいます。
主人公の女性は言葉ではなく、彼の横顔の表情に隠し切れない心の真実を見つけようとしたのです。
そして、ふと石を投げた瞬間に自分の感性が彼を信じたことを確認したのです。

恋愛は言葉ではなく結局は心の結びつきや、感性の火花のようなものがたいせつだということを詞にしたのだと思います。

今改めて聞き直してみると、この曲の切り口も随分と斬新で実験的だなと思います。
松本隆は1976年にこの様な詞を作って、やっぱり天才だなあと思いました。

ガラスの腕時計

松本隆的な言葉
・あの日から動かない 腕時計があるの
・あの人の心を変えた いじわるな季節の流れ
・あの日から廻らない二つの針がある もう二度と重ならぬ 心が止まってる

無くした恋を腕時計の針で表現した曲です。
彼の心変わりが原因で恋が終わってしまったのです。心変わりとは、他に好きな人が出来たことだと思います。
学校(大学)や会社はいろいろな人と出会うことが多い場所なので、それは青春の宿命かもしれません。そう思うと、20才前後に付き合いだして結婚した人達というのは、運命的な出会いだったのかもしれないです。本当に気が合ったのだと思います。

松本隆は少し残酷な、青春の宿命を書きたかったのかもしれません。

君と歩いた青春(作詞・作曲:伊勢正三)

とても好きな曲なので、作詞が松本隆ではありませんが書きたいと思います。

この曲はイルカが唄って大ヒットした「なごり雪」に登場する二人の、その前日に彼が彼女に話した内容が歌詞になっていると、僕はこの当時から思ってました。伊勢正三はもちろん「なごり雪」を作詞、作曲した人です。
この歌は当時伊勢正三が所属していたグレープ「風」のサードアルバムにも収録されました。「12ページの詩集」が出た当時に、テレビの歌番組「ミュージック・フェア」太田裕美が一緒に出演しているのを僕はラッキーにも偶然見ています。その時、伊勢正三が「若い人に唄ってもらえるのはうれしい」というようなことを言っていたのを覚えています。
時代は巡って現在は「なごみーず」というグレープで、太田裕美と伊勢正三は時々一緒に唄っていますが、「なごみーず」でテレビに出るとこの「君と歩いた青春」は必ず唄います。

この歌の最後のサビの歌詞が僕は大好きなので書きます。
   「君と歩いた青春が幕を閉じた 君はなぜ男に生まれて こなかったのか」

出会った女性の人間性とか生き方が好きになった時、もし彼女が男性だったら大親友になれたのにと思ったこたはありませんか?彼女は女性として恋愛や結婚をして、自分達の仲間から自然と距離が出来てしまうのは何とも言えない気持ちにさせます。その時、彼女が男に生まれてきてくれてたら良かったのにと心から思うでしょう。彼女のことを女性と言うよりも人間として好きになるという感情は、滅多にないことだと思います。
僕にはその様な女性がいます。もちろんありがたいことに、今でも親しい友人なのはうれしいし、それは彼女の心の広さがあったからだと思っています。そして、彼女の素晴らしい人間性生き方は健在です。
僕は彼女と出会ったことや、現在の状況をとても良かったと思っています。うまく言う事はむつかしいですが、僕では彼女を幸せにする事は出来ないと、ある時から自分でわかっていたからでです。

この歌では、人間性から好きになった彼女に、いつしか恋愛感情を持って接してしまった彼の後悔が書かれています。そして、彼は彼女が男だったら傷つける事も無く、ずっと親友だったのにと思っているのです。

このアルバムには、この他にあと6曲がが収録されています。

敬称は略しました

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